韓ドラとソウルホテルと。

韓国ドラマのレビューブログ(基本的にネタバレ)。ときどき昔話。

応答せよ 1997

yoonaのココが見どころ!

■誰に聞いても「面白い!」という応答せよシリーズの1作目、話は意外に単純

■韓流ブーム初期からのドラマファン、K-POPファンは2倍面白い

■釜山なまり!

 

ようやく「応答せよ1997」を見ることができた。

2012年の作品だけど、その後シリーズ化されて評判も高まって、

でも、作られた順番に見ないとということだったので、1997がBSで見られるタイミングで放送されるのを待っていたら、遅くなりました。

 

ケーブルテレビのドラマが出だしたころで(tvNは2015年にようやく10周年)、

このドラマの演出はバラエティ出身、しかも主役クラスはドラマ初出演の新人ばかりだったのに大きな評判を得たのは、

まさにこれまでのドラマづくりとは違う「面白さ」をふんだんに盛り込んだところ、

くったくなくまっすぐに生きる10代の高校生を、よけいな色がなくまっすぐに演じた俳優たちのおかげだろう。

 

まず、釜山なまりに驚く。

釜山の高校生を描くにあたって、釜山出身であるというだけで、主役のユン・ユンジュ

役のイ・ソングクとソン・シウォン役のチョン・ウンジは選ばれたという。

日本で吹き替えの韓国ドラマを見ると、釜山なまりはたいてい関西弁に置き変えられる。

標準語であるソウルことばと釜山なまりの違いは、おそらく日本の標準語と関西弁以上で、

ソウルから転校してきたハクチャン(ウン・ジウォン)が言ったことがよく聞き取れない、ハクチャンも同級生たちが言っていることがわからないというのを見ると、それがわかる。

 

昔のドラマ「天国の階段」で主役だったクォン・サンウチェ・ジウはともに釜山出身で、二人の釜山なまりの抜けない発音が聞き取れないと批判されたこともあったっけ。

なまりが強いだけでなく、釜山の人は恐ろしく早口でまくし立てる。

聞いているだけで、こわいとさえ感じる。

 

ドラマでは、1997年に釜山で高校時代を過ごした仲間の日常とその後、2005年と2012年の同窓会が描かれて、それぞれのシーンが交錯しながら進行する。

1997年は脚本家にとっても思い入れのある時代だそうだが、韓国にとっても通貨危機に翻弄された変化の時代だ。

ただし、ドラマの高校生たちはそこそこ裕福な家らしく、そのためにそれほど悲惨な目に遭うことはなかったようだ。

韓国のスターたちのインタビューで、「通貨危機で親の事業がだめになり」というのはよく聞く話で、そのためにアルバイトをたくさんしたとか苦労した話がいろいろ出てくるけれど、シウォンの父親の年俸が半分になったという表現がある以外は、それほどの影響は見えない。

 

ユンジェと兄のテウン(ソン・ジョンホ)兄弟の両親は、シウォンの両親とは親友だったが、事故で亡くなっていて、ユンジェは兄とシウォンの家族に見守られながら成長した。

同居こそしていないが、ユンジェとシウォンは家族同然の間柄だ。

ともかく同じ屋根の下で暮らす、というラブコメのお約束はここでも守られている。

 

片方の親が亡くなって、片方の親が面倒を見るというパターンも、

最近見たドラマでは「よくおごってくれる綺麗なお姉さん」がそうだった。

あちらは男女のきょうだい同士だったが、このドラマは兄弟と姉妹だ。

 

ただ、シウォンの姉のソンジュはドラマの前半で事故で亡くなってしまい、影が薄い。

兄のテウンはソンジュとつきあっていたが、そのことが後にテウンがシウォンを思うようになって、ジメジメした展開になることはない。

シウォンが少しは自分が姉の代わりではないかと疑うが、テウンもそう思った時もあったと言いながら、あっさり否定したことで、二人がソンジュの影を引きずることがない。

ここは普通の韓ドラなら、死んだ恋人の面影を妹に重ねて執着しまくるとか、姉への遠慮に苦悩するとか、おもいきり引っ張るところだろう。

 

このドラマは、こういう風に、普通の韓ドラなら必ず話を深く面白くする出来事をすべてスルーする。

「よくおごってくれる~」では、親が姉弟のように育った二人の仲を認めないし、結婚相手の両親がいないことも問題視する。

シウォンに告白した兄テウンは、シウォンの高校の教師だ。それはありなのか。

親を失った二人がお金に困ることもなく、友人たちも特段貧乏な家の子はいない様子。

そこにひがみとかが生まれることもない。

仲間うちに貧富の差がそれほどなく(たぶんみんな普通の家の子)、

勉強ができるからといって嫉妬したりしない。

成績が悪いからといって、見下したりしない。

実に平和なドラマなのである。

 

何が面白いのかといえば、1997年という時代をきめ細かく徹底的に再現したところ、ということだろうか。

韓ドラ初心者にも、このドラマはちょっとキュンとする初恋物語として楽しめると思うが、

長く韓ドラやK-POPを追いかけていると、なるほど、なるほどと思えることが随所に出てくる。

シウォンがはまっていたH.O.Tの音楽、そのアイドルを追っかける日常。

ライバルグループのSechskiesのファンクラブとの対立。

母娘がはまっていたドラマはアン・ジェウク主演の「星に願いを」であり、

家族でチキンを食べながら見た1998年のサッカーワールドカップフランス大会、

なにもかもが「懐かしいあの時代」であり、ドラマをみながら、自分はどうしていたかを思い出すのである。

 

日本人でもわかることといえば、

 

登場人物たちが持っている携帯電話やポケベル、音楽を聴くカセットテープ、

VHSのエロビデオを編集するハクチャンとか、

見たいドラマを録画するためには、その時間にそこにいなければいけなかった(予約録画という機能が登場する前)事情。

大事に録画した番組の上に、家族の誰かがほかの番組を録ってしまった時の怒りとか。

 

たぶん、このストーリーに韓ドラらしい、愛憎、策略、恨みつらみなどを盛り込んだら、

そういう1997年の時代感がうずもれてしまったかもしれない。

見ているほうが、ただひたすらにこの時代に郷愁を覚えることによって、

自分にもそういう時代があったということを思い出し、

たわいのない「初恋物語」がよりいっそう引き立つことになったのだと思う。

 

ただ、誰にでもある初恋物語としては、一般的な感覚から言って、設定が度を越えている。

兄妹同然に育った二人だけど、男の子のほうが超優秀でスポーツも万能なイケメンであったりとか、

そのあたりがもう「普通」じゃありえない設定だ。

女の子のほうはすごくきれいでもないし頭もよくないけど、底抜けに明るくて、性格がかわいいとかは、

イタズラなKiss」の設定を思い出す。

マンガなのだ。

 

兄テウンは、シウォンが好きだと言って、高校教師を辞め、事業を起こす。

ユンジェも大人になったし、彼なりに恋人の死を振り切って、自分のやりたいことをやろうという意志だったのかもしれない。

ユンジェも多くを語らないがテウンも自分のことは寡黙なので、その辺、彼がどうしたいと思っているかは、物語が進まないとわからない。

あるとき、大きくなった会社を売って大金を得た彼は、それを全部寄付して、政治家への道を歩むことになり、やがて大統領候補になる。

マンガである。

 

物語は徹底してコメディタッチで展開する。そこがバラエティ出身の監督ならでは何だろう。

シウォンの両親の喧嘩も、アイドルの追っかけをするシウォンも、仲間たちの日常も、一つひとつがシチュエーションドラマとかシットコムを見ているようで、ギャグのようなオチも毎度用意されている。

 

ドラマに登場する苦悩といえば、

兄と同じ人を好きになったユンジェの苦悩と、ユンジェを好きになったジュニ(INFINITEのホヤ)の苦悩。

両親を亡くしたとき、幼い弟のユンジェのためにソウルの大学に行くことをあきらめ、釜山で高校教師をしているテウンの苦悩もあまり大っぴらには描かれない。

 

ユンジェを好きでいながら、いつも静かに、ユンジェとシウォンを見守るジュニを見ているこっちのほうが、こんな時代にこの子はどうするんだろうとはらはらするばかりだ。

ユンジェとシウォン、ハクチャンとユジョン(シン・ソユル)が喧嘩を繰り返しながら、結局は初恋を実らせることになるが、ジュニは誰とも言い争うこともなく、静かに想いを続ける。

ジュニの同性愛的な想いを突っ込むことはしない。優秀な彼を、医師として成長させることが、それを普通のこととしてとらえたドラマの作り手の意見だ。

初恋を実らせた子たちよりも、ジュニに胸が痛いのは、誰にでも言葉にすることがなかった想いがあるからだろう。

初恋を実らせるなんて、本当に稀有なことなのだから。

 

高校を卒業して進路が分かれてから、物語の舞台は2005年に飛ぶ。

兄を選んだシウォンに、ユンジェは6年間会わなかった。

同じ家に帰省するのにそんなことができるだろうか、とか考えてみた。

1回や2回はなんとか言い逃れても、この家族が一同にそろわないことをそうそう許すはずもないのに、と思った。

ユンジェは同窓会にも顔を出さず、ソウル大学を卒業して司法試験に受かって、裁判官になっていた。

シウォンは構成作家として放送局で働いている。

偶然再会してみると、シウォンはテウンよりユンジェが好きだという。

兄のテウンともつかず離れずの関係だったシウォンも、多少悩んだ様子だが、

二人の苦悩の前に、テウンは驚くほどかっこよく身を引く。

ここでも、韓ドラ的兄弟の確執は上手に避けられる。

 

そしてそのご褒美のように、テウンはある女性と出会うことになる。

その女性もシウォンのようにアイドルの追っかけをしていた。

H.O.TやSechs Kiesは解散していて、2005年は東方神起の時代になっていた。

 

ドラマでは、2012年の同窓会で、1組のカップルが誕生したということ、どうやらシウォンが妊娠しているらしいことがわかってくる。

1組のカップルは誰と誰なのか、シウォンの夫は誰なのかは、最後までわからないようになっていて、初恋物語がありふれている分、そこで視聴者の興味を最後まで引っ張っている。

 

高校を出るときの進路希望ではことごとく夢が破れた生徒たちも、

年月が経ってみると、その当時の夢とそれほどかけ離れたところにはいない。

夢の範囲やレベルをちょっとずつ下げながらも、根本のところでは変わっていない。

それは自分の周りに重ね合わせてもうなずけるところがある。

 

あと、ソ・イングクって子。

まったくタイプじゃないんだけど、こういうタイプじゃない子が、ドラマが進むにつれてよく見えてくるときは、そのドラマは面白い。

そもそもタイプの俳優がやってるときは、ドラマ以前に俳優にはまってるから、ストーリーは面白ければいいやという感じなんだけれど、

その役としてぐいぐい引き込まれていくときは、ドラマは超面白い。

過去の経験から言うと、古いが「パリの恋人」のパク・シニャンとか。

シウォンもスーツで決めたテウンをみて、かっこいいの意味で「パク・シニャンみたい」と言っているけど、この当時やってたドラマは「約束」だろうか。

それから「コーヒープリンス1号店」のコン・ユ。「トッケビ」のコン・ユではない。

ソ・イングクも役で良く見えるタイプかもしれない。

 

俳優が若いときは、周囲をベテランで固めるものだが、このドラマではシウォンの両親がすこぶる良い味を出している。

いろんなドラマで見るソン・ドンイルさんとイ・イルファさんは、役名もそのままで、

実に頑固な釜山人ながら、温かく理解のある親を演じている。

この母が毎回大量の料理を作るのも度を越していて、ただ料理が出てくるだけなのに笑える。

二人の喧嘩にへきえきしていたユンジェとシウォンも、最後には二人とまったく同じような関係になっていく。

 

シウォンの同級生は、最年少のチョン・ウンジ(1993年生まれ)から1978年生まれのウン・ジウォンまで、実に15歳もの年齢差のある俳優たちがつとめている。

韓国のドラマでは、平気で30代の俳優に高校生役をやらせるけれど、

同級生が15歳の年齢差で、あんまり違和感がないというのもすごいことだ。

ドラマが作られた当時(2012年)には、ウン・ジウォンは34歳、パン・ソンジェ役のイ・シオン(1982年生まれ)は、30歳である。

もっとも、ソ・イングクも25歳だったので、2005年のシーンのほうが違和感がないはずだが、1997年の高校生も全く違和感がないのは不思議なこと。

 

BS放送はカットされているんじゃないかと思ったけれど、Amazonビデオの時間を見ると、最初のほうは35分とか40分しかなくて、最後のほうになってようやく1時間分ある。

BSの放送は16話をうまく配分してカットはあまりないようだ。

それで、気になっていたことがあるのだが、ユンジェがいきなり腕を骨折して入院しているシーンが出てくるのだけれど、どうしてけがをしたのかがわからなかった。

これはカットしたのかと思っていたのだけれど、

16話の最後になって、高校生時代にみんなで写真を撮るシーンが出てきて、

そこでユンジェが骨折することがわかる。

物語の途中に出てくるエピソードのように視聴者の意見でストーリーが変わることなく、

いろんな布石をばらまきながら、一つ一つそれを収拾していった凝ったつくりのドラマだった。

 

2005年にカシオペア東方神起のFC)の副会長だったテウンの主治医は、

2012年にはカシオペアの会長になって、東方神起の日本ツアーを見に行っている。

シウォンがそれを知って、「うちの家族から偉大な人が出た!」「自分もソウルに生まれたかった」というのが面白い。

シウォンたちが半そでを着ているところを見ると、この時は夏で、

彼女が見にいったのは、東方神起の「TONEツアー」だと思われる。ハンドルネームからジュンスのファンだと思われるが、どうやら2人の東方神起側についたようだ。

 

東方神起といえば。

ジュニに「8人の姉がいる」というのは、ジェジュンのことを思い出した。

韓国でもそれはなかなか珍しい、記憶に残る話なのだろう。

 

この時こうしていたら、未来は違ったのかもしれない、と思わせるところも随所にあった。そうしたすれ違いや思い違いは、見ているこっちにも思い当たる節がいろいろあって、「そうそう」と思いながら見ていた。

たとえば、パソコン通信でシウォンが知り合ったソウルの大学生と電話で話をすることになったのに、それに嫉妬するユンジェが電話をとってしまって、それきりになったこと。(この大学生はシワン君が演じていた)

シウォンの姉ソンジュが、バス旅行に一緒に行こうというのを断ったテウン(そのバスが事故にあってソンジュは亡くなった)。

テウンからシウォンが好きだと聞く前に、ユンジェがシウォンに告白していたらとか。

両親たちのエピソードにもある。シウォンの母が、シウォンの父とユンジェの父を間違えなければ、シウォンもユンジェもこの世にいなかったかもしれない。

 

私は最後に、同窓会の会場にジュニを迎えに来た赤い車の主がどんな人だったのかが気になったが、ジュニに新しい恋が見つかって、良かったと思う。

ホヤはINFINITEのメインダンサーだったけれど、俳優をやりたいといってグループを脱退してしまった。今は入隊中だが、その後ホヤがどうするかも気になる。

 

 

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印象的なキスシーンが多いことも話題だった。

ソ・イングクの首が長いせいか、彼がぐいっと首を伸ばすアングルがきれいだ。

 

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ソ・イングクはもともと歌手で、チョン・ウンジはガールズグループApinkのリードボーカルだから二人とも歌が上手い。

 

 

【作品メモ】

韓国放送:2012年7月~ tvN

演出:シン・ウンホ/パク・ソンジェ 脚本:イ・ウジョン/イ・ソンヘ/キム・ランジュ

16話