韓ドラとソウルホテルと。

韓国ドラマのレビューブログ(基本的にネタバレ)。ときどき昔話。

椿の花咲く頃

yoonaのココがみどころ!

■久しぶりに良質な親子のヒューマンドラマだった!

■田舎のおにいちゃんにこっちも惚れてしまうというロマコメだった!

■最初から死体が登場し、途中もぞっとするサスペンスだった!

 

 「愛の不時着」を見るためにNetflixを契約したとき、

1ヵ月契約したらあと3本か4本は見られるかなと思っていて、

2番目は「梨泰院クラス」、そして3本目は「椿の花咲く頃」と決めていた。

 

あと、「ハイエナ」と「キング」を見ようと思ったけれど、野球が始まるので、Netflixはいったん解約する。録画しているBSのドラマもあるし。

 

「椿の花咲く頃」というのは、カン・ハヌルさんの除隊後の作品だったので見たいと思っていた。

入隊前の「麗」が良すぎたし、彼の(特に映画の)作品選びはちょっと面白いと思っていて、次の作品がどんなのかは気になっていたから。

 

ヒロインは、34歳の未婚の母、ドンベク(コン・ヒョジン)。

コン・ヒョジンという女優が好きなわけではないのだけど、不思議と彼女の作品をよく見る。そしてけっこうおもしろい。

彼女も作品選びが上手なのか、視聴率女王なので、良い作品が彼女のところに集まってくるのか。

だいたい彼女はものすごく美人というわけではない。

スタイルが良くて細いから、いつも変な服を着ている、という印象が強い。

 

ドンベクとは「椿」のこと。

椿の花の韓国での立ち位置がわからないが、ちょっと調べると、「冬の花といえば椿」という認識らしい。日本だと「花=さくら」だけど、そう名付けるくらいの感覚かなあと思う。

このドラマでは「花言葉」が意味を持つので、これも調べたら椿の花言葉は、「慎重、虚勢を張らない真実の愛」。なるほど、これがテーマかも。

 

オンサンという田舎町(架空だそうだが)が舞台で、住人達もすごくなまっていて、都会っぽい雰囲気はない。

 

ドンベクは、付き合っていた野球選手との間に男の子をもうける。が、相手にはそのことを告げずに別れたので、一人で子育てをする生活は苦しく、

オンサンの町にやってきてようやく「食堂」を開くのだが、

田舎町では、ドンベクの店を「食堂」ではなく「スナック」と呼び、未婚の母である彼女にことあるごとにつらく当たっていた。

 

もともとオンサンの出身で、町の派出所に赴任してきた警察官のファン・ヨンシク(カン・ハヌル)は、ドンベクに一目ぼれ。

が、押しの強いヨンシクをドンベクは煙たがる。

 

ロマコメなら二人がハッピーエンドになることは目に見えていて、子持ちで年上のドンベクがどうやって田舎っぽい青年のヨンシクを好きになるのか、その過程を楽しむべきだが、

ドラマは途中から、ロマコメではなく親と子の問題を扱うヒューマンドラマに変わっていく。

そしてドラマの冒頭に出てくる「死体」は、静かなこの町で起きた連続殺人事件が、また再び起こることを予測していて、最後までその犯人探しがもう一つのストーリーとなっている。

 

 最近の韓ドラは、こういう複合的なジャンルのものが多い。ロマンスやコメディだけでは、韓ドラの20話ほどの長さを持て余してしまうのか、次の展開が気になって仕方ないような「事件」を組み合わせること、またその事件にヒロイン、もしくはヒーローが巻き込まれていくことで、たわいのない話、どこにでもありそうな家族の物語に、スパイスを利かせているようだ。

最近見たものでは「トンネル」もそうだし「マソンの喜び」も殺人事件が組み合わさっていた。

若い人の恋愛に、親が口出しをするドラマはいくつもあったけれど、こうしたまったく違うジャンルの組み合わせは今の韓ドラの流れなんだろう。

 

ヨンシクの母ドクスン(コ・ドゥシム)は、ヨンシクが生まれる前に夫を亡くしており、一人で子育てをするドンベクには優しく接しながらも、息子の嫁として認めることができない。親というものの理性と感情のギャップをうまく見せている。

父親がいないながら、末っ子として大事に育てられたヨンシクは、これ以上ないほどまっすぐな青年に成長する。

 

ドンベクの一人息子ピルグ(キム・ガンフン)の父親は、プロ野球選手のカン・ジュンニョル(キム・ジソク)である。別れたドンベクが内緒で自分の息子を育てていることを知って、なにかとつきまとうようになる。ソウルには現在の妻ジェシカ(チ・イス)と娘がいるが、二人の間には愛情はなく、ジェシカは「ミセス・カン」として世間からちやほやされることを望んでいる。

 

ピルグは8歳で、何もわからない幼児でもなければ、大人の事情を理解するほどでもなく、突然現れた実の父親と、母親が大好きだと公言してはばからない警察官の間で悩みを深くする。母親を守れるのは自分だと思っていたのに、二人の大人が自分の立場を奪おうとしていた。

 

ヨンシクと母、ドンベクと母(イ・ジョンウン)、ドンベクとピルグという3組の母子の物語でもあり、

それ以外にも、ドンベクの店の大家であるギュテ(オ・ジョンセ)とその母、ジュンリョルの妻ジェシカとその母など、どこにでもいそうな親子関係にある問題が描かれていて、時には親密に、時には対立しながら、やっぱり親は子には勝てないという普遍なテーマを描いているようだ。

それ以外にも、金物屋のフンシク(イ・ギュソン)とその父の関係と、ドンベクの店でアルバイトをするヒャンミ(ソン・ダンビ)と家族の関係は、いつか犯罪へとつながりかねない危うい家族関係である。

 

「欠損家族」という表現がよくつかわれている。日本語の字幕ではそうは訳されていないが、あちらではそういう表現を使うのだろう。

片親がいない、もしくは親がいないということを意味するのだろうが、韓国のそれも狭い田舎町では、それが差別の的となる。

 

一方で人々の結束の固い小さい町だから、よそ者を簡単には受け入れない土壌があるが、人情には厚く、一度輪の中にはいってしまえば、必要以上に過干渉し、助け合い、守ってくれるという温かさもある。

 

ヒロインはドンベクで、ヒーローはヨンシクだが、このドラマはどの人もみな自分の人生の主役であるかのように描かれている。

どの人も、どこにでもいそうな市井の人々だから、どの人の行動や考えにもなんとなく納得できるところがあり、否定できないこともある。(殺人者以外は)

 

ドンベクは気の強い女ではなく、他人の目を気にしながら生きているせいか、どこかいつも委縮している。

親がいなくて自分がいじめられたように、息子のピルグがいじめられはしないかといろいろと気を使って生きているが、その気の使い方が、たぶん町の人たちにはよそよそしく感じられるのだろう。

 

反対にヨンシクはこれ以上ないほどに、まっすぐで、率直な性格だ。ヨンシクに一目ぼれしたのだから、「美しい容姿」にひかれたのは間違いないが、好きとなったら自分の全部をかけて相手を守りたいし、相手の嫌がることはしたくないし、相手の気持ちを尊重したいと思っている。

好きになった相手に、いつもこのようにまっすぐに向かったら、誰とでも結婚できそうだが、30歳になってもまだ独り身だ。

 

ドンベクとヨンシクのたわいないやり取りがコミカルで面白い。

悩み多いドンベクが「難しいことは考えたくないから、簡単な男がいい」と言えば、ヨンシクは「世界で一番簡単な男になる」という。(ここ一番好きかな)

ヨンシクはドンベクが子持ちであることなど、最初から眼中になかったかのようだが、

彼の母親がそれを理由に反対するだろうことはわかっていた。

他のドラマに出てくる優しいママボーイよろしく、彼もまた母親の反対を押し切ることは考えていないらしく、どうにか理解してもらおうと努力する。

 

ドンベクといるとき、ドンベクが自分を受け入れてくれるようなことを言った時の、ヨンシクの笑顔がたまらん。

それはヨンシクなのか、カン・ハヌルなのか、本当に錯覚する。

そして事件の犯人を追いかけているときの厳しい目つきは怖いくらいで、それもまたカン・ハヌルなんだな~。

これまで「ミセン」と「麗」のカン・ハヌルを見たけれど、その2つとヨンシクはまた全然違う役柄で、本当に彼の振れ幅の広さに驚いてしまう。

ヨンシク一人だけもこれほどに違うのに。

「麗」の時も、やさしいウクと嫉妬に燃えるウクは全然違う人見たいだったし、ものすごく甘い顔つきでもない分、どっちにも入れ替われる俳優向きの顔なのかも。

 

普通のラブコメなら、貧乏で困っているヒロインには、最後にお金持ちでかっこいいヒーローがくっつくのだが、

田舎のおまわりさん、というのもなかなかな設定だと思う。

せめて公務員にしたところが、お金には困らなそうという感じもするけど、ライバルは年俸1億2千万円の野球選手だし、子どもの父親だし、

それを「まっすぐで裏表のない正直な性格と温かさ」で打ち負かせたのがすごい。

逆にいえば、ドンベクの人生に足りなかったものは、それなんでしょうね。

だから、ヨンシクの存在そのものが、ドンベクにとって「奇跡」になりえたのだと思う。

 

ヒャンミの話は、どうにもやるせなくて、せめて死なずに済んだらよかったのに、と思っている。

過去のエピソードで視聴者だけが知っているが、ドンベクとヒャンミは小学校の同級生だった。同じように親のいない子だったが、ドンベクの周りにはいつも誰かがいて、ヒャンミには誰もいなかった。

ギュテの妻ジャヨン(ヨム・ヘラン)が、ドンベクの笑顔がいいから人が集まる、というようなことを言うシーンがあるが(たしか)、

同じような境遇に育ちながらドンベクとヒャンミの人生を分けたのは、そうした些細なことだったのだろうと思う。

ヒャンミをドンベクの代わりに殺すことが忍びなかったのか、ヒャンミが死んでしまうまでの1日のエピソードはたくさん描かれている。

自分の人生がうまく行かないことを嘆きながら、「今度生まれてくるときはドンベクさんの娘になりたい」と言ったヒャンミだが、

ラストシーンで、ドンベクとヨンシクに娘が生まれたと思われるシーンが出てきて、その子の名前が、ヒャンミの本名だったというのは、すごくぐっとくるシーンだった。

 

「愛の不時着」の北朝鮮のおばちゃんたちよろしく、オンサンの町のおばちゃんたちも結束が固く、かなりの迫力だった。

オンサンの町は誰かがどこかでつながっているから、うっかり居酒屋で愚痴もこぼせず、新参者のドンベクの店なら男たちが安心してくつろげるという設定もいい。

ドンベクが美人だから男たちが集まるということにしたら、また別の感情を生んでしまうだろう。

 

ドンベクと母の物語は、それだけで一つのドラマになるほどだった。

自分と一緒にいないほうが幸せになれると思って、母はドンベクを捨てたのだが、

親のいない子として育つことのつらさは、母親の想像を超えていた。

複雑な家庭で育つと、一般的に幸せな家庭を築くことの難しさという壁にぶち当たるものだと思うが、ドンベクもその例にもれず、ピルグとのこと、母親とのことで悩み苦しむ。

自分の想像以上に悩みを持つピルグを見てドンベクも、父親であるジュンリョルもだんだん親らしくなっていくところがいいです。

ヨンシクは、他人の子の親になれるかなんて、そもそも考えてもいない風ですが。

 

でも、ピルグが泣かせてくれましたね。子どもって本当によく大人の顔色を見ていて、子どもなりに考えているんだなと思うし、ピルグ役の子、すごく上手だった。

 

一人一人のことを書いていたらきりがないほど、一人ひとりの描き方が丁寧で、突っ込みどころの多いドラマだった。

 

最後はジュンニョルがピルグを引き取ることをあきらめて、その代わりにずっと経済的な援助を続けることになり、ピルグがメジャーリーガーになるところまでが描かれた。

(大人になったピルグは、ピルグの面影もあったし、ジュンニョルにもちょっと似てる)

 

見終わって、久しぶりにほのぼのしたし、二人が結婚したってまだまだいろいろあるんだろうなということも容易に想像がつくけれど、まあ、「めでたし、めでたし」というところだろうか。

 

KBSの平日ドラマとしては久しぶりに視聴率が20%を超えたヒット作だったとか。

海外ロケも、大仕掛けのセットもなく、脚本の良さだけで最後まで引っ張ったドラマだと思う。

登場人物の誰一人として、物語からこぼれず、きっちりと収束している。

脚本が良くて、俳優が任務をまっとうしたら、良いドラマになるんですね。

 

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【作品メモ】

韓国放送:2019年9月~ KBS

演出:チャ・ヨンフン 脚本:イム・サンチュン

全20話

 

年末のドラマアワードで、ドンベク&ヨンシクはもちろんカップル賞をもらったんだけど、こっちのカップルももらったというのが、面白いオチ。

 

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気になっていることがあって。

トンベクの姓はどっかに出てきたと思うんだけど、ピルグは、カン・ピルグですね。

トンベクとは違うと思う。

父親がいないと母親の姓になると思うんだけど、ピルグはカン・ジュンニョルと同じ姓。これはどうして?と思ったんだけど。ジュンニョルが認知してないのに~。

「冬ソナ」のカン・チュンサンの母はカン・ミヒで、母親と同じ姓であることでいじめられていたなあ。