韓ドラとソウルホテルと。

韓国ドラマのレビューブログ(基本的にネタバレ)。ときどき昔話。

梨泰院クラス

yoonaのココがみどころ!

■いろんなマイノリティが出てくる。そういう差別が顕著な韓国では新しいかも。

■原作のウェブ漫画とのシンクロに対して評価は高いが、実写化するにあたってあえて変えたところに、韓国のドラマ作りのこだわりが見える。

■評判が高い割には、私の評価はイマイチ。

このドラマの韓国での放送が終わったのが、ついこの間の3月。

韓国ドラマをこんなに早く見るのは初めてだと思う。

Netflixを契約しているついでに、評判のドラマを見ることに。

 

 パク・ソジュンは前作の「キム秘書はどうして?」に続き、ウェブ漫画が原作の作品だ。

今回も、いろんなところで、「原作マンガとのシンクロ」ということが高く評価されてたけど、それは第一に「見た目」ということがあるとのこと。

 

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このポスターを見ると、シンクロというかそっくりだ。(いや、絵が先なのか、ポスターをまねて絵を描いたのか?)

ドラマに出演するにあたって、パク・ソジュンの、この変な、前髪ぱっつんのいがぐり頭にしたのを見た時すごくびっくりしたけれど、なるほど、マンガはこうなのね。韓国ドラマの場合は、何事も外見から入る。外見をそっくりにして、マンガ版のファンを納得させるためだろうか。

 

ちなみに、後半で彼がお金持ちになっても、ヘアスタイルが変わらないのは、彼の「信念を変えない」という性格を表したものらしい。

 

主人公のパク・セロイ(パク・ソジュン)は、無口で友人も少ない少年だったが、信念をもって、決して外圧に折れない生き方を良しとしていて、そのために高校も中退し、刑務所にも行くことになった。

 

父親を殺された無念を晴らすために、長い計画をたてて、地道に着実にそれを実現している。

「梨泰院クラス」は、何も持たない若者が成功した話というより、復讐ものなのである。

ついこの間も、「無法弁護士」で母親を殺された子が、弁護士となって復讐するというのを見たばかりだけど、韓国では、一つのジャンルとして、この復讐ものがある。

私はあんまり好きじゃない。

全編に、「相手を恨みとおす」という怨念がこもっていて、どうも見ていて楽しい気分になれないからだ。

韓国の場合は、悪い奴は徹底的に頭の先からつま先まで悪い奴で、決して改心することがないし。

 

日本の時代劇には、仇討ものというジャンルがあって、親の仇を打つのは道理として認められている部分があるが、それくらい世の中に「仇討」が正当なものとして認められているんじゃないと、なかなか受け入れられないものがある。

 

やられたらやり返すのが、韓国の流儀で、彼らは決して「水に流す」ということをしないし、忘れそうになっても、ことあるごとに思い出す。

 

死んだ父親の保険金を投資して資金を増やす一方、出所したセロイは、漁船に乗ったり、工事現場で働いてさらにお金を貯め、ようやく小さい居酒屋を開店することになる。

場所は、初恋の相手オ・スア(クォン・ナラ)と再会した町、梨泰院。

外国人も多く、ほかの町とは一線を画す梨泰院では、セロイの地味な店はなかなか客が入らなかった。

 

一緒に店を始めたのは、刑務所仲間のスングォン(リュ・ギョンス)と工事現場の仕事で知り合ったトランスジェンダーのマ・ヒョニ(イ・ジュヨン)。

店をやるにあたって、居酒屋で働いた経験とか料理の腕ではなく、「親しくなった」というところに重きをおくところがセロイ流。

 

そこに、高校を出たばかりのチョ・イソ(キム・ダミ)が転がり込んでくる。

IQが160以上でありながら、反社会性パーソナリティ障害(ソシオパス)をもち、そのひねくれた率直すぎる物言いで他人に受け入れられることがなかったチョ・イソは、まっすぐすぎるセロイの言動にひかれ、進学をやめてセロイの店のマネージャーになると言い出す。イソのアイデアで客が集まるようになるとセロイもその能力を認めることになる。

 

イソにくっついてセロイの店で働くようになったのは、張家の次男(長男とは腹違い)のグンス(キム・ドンヒ)。長男のグンヒョン(アン・ボヒョン)が跡取りとして育てられたのとは違って、グンスは虐げられて育った。

 

セロイは人を過去や出自で判断しない。あくまで今がどうか、一緒に働く仲間として信頼できるかということで判断する。自分が信じたら、簡単に疑うこともしないし、突き放すこともしない。

自分が思い込んだことを決して曲げないというのは、彼の美点でもあるが、あまりに曲げな過ぎてちょっといらっとすることもある。

 

セロイの父親を殺したのはグンヒョンだが、その罪を権力をつかって隠した父チャン・デヒ(ユ・ジェミョン)は、セロイとの初対面の時から、自分に対してへりくだることのないセロイの態度に危険なものを感じていた。

「土下座をしろ」というチャン・デヒに対して、自分が悪くないと思えば頭を下げることのないセロイ。

いつしかデヒは、セロイに頭を下げさせることが、目標みたいになっていく。

セロイは絶対に頭を下げないんだけど。

 

セロイは父親の仇としてグンヒョンを刑務所に入れ、グンヒョンを法で裁こうとしながら、

一方では、その父親の作った「張家」をしのぐ店を作ろうとし、その過程では、チャン・デヒの理念をリスペクトしたりする。

 

オ・スアは、施設で育ち、張家の援助を受けて大学に行き、張家に就職していた。スアはセロイの父親と張家のかかわりを知っていたし、セロイが張家に対し憎しみを持っていることも知っていたはずだが、どういうわけか張家で出世していく。

 

普通に韓国ドラマになれた身にとっては、こうした人物像の作り方にはたくさんの疑問が生じて、それが最後まで、解き明かされなかったために、どうもこのドラマは見ていてしっくりこないところが多かった。

 

まず、チャン・デヒの悪人ぶりが、どうしてそこまでそうなのか、というところが良くわからず、ただ「悪い奴はどこまでも悪い」、セロイを苦境に立たすためにとことん悪いことを思いつくようにしか見えず、どうしてそこまで性格が歪んでしまったのかが理解できないのである。

 

グンヒョンのひねくれ方のほうが、まだわかる。

こんなひどい親に育てられたら、まともになるはずがない。

グンスも、親兄弟から愛されない育ち方をしているので、いずれセロイのもとを離れるとは思ったが、いかんせん地頭が悪いので、みごとな敵になりきれない。

 

最後まで何だかよくわからなかったのが、オ・スアの立ち位置だ。

セロイに思いきり肩入れするでもなく、時にはチャン・デヒの手先のように動きまわりながら、いつかセロイが自分を助け出してくれる王子のように思っている。

 

張家クラスの企業で、企画室長として重宝されるくらいなら、いくらでもほかの企業に行けそうなのに、なぜか張家にとどまり、セロイを振り回す。

 

セロイもセロイだ。

スアを初恋の相手としながらも、そこから一歩も踏み出すことをしない。

スアが対立する張家の社員であることが障壁なのでもなく、彼女をスパイに使うのでもなければ、憎みながら踏み台にするのでもない。

 

「梨泰院クラス」が、これまでの韓国ドラマの枠にとらわれていないから、いろんなことが腑に落ちないのかもしれないが、一番気になるのは、人物がどうしてそう動くのかということに、一つ一つ根拠が浅いということがある。

 

セロイ一人は、最初から信念を曲げずに、最後まで自分を貫くが、セロイがそうできるように周囲の人物が作られ、動いているように見える。

セロイが思いもよらない展開に巻き込まれるときは、たいていチョン・デヒが背後で動いている。それ以外の人物がどう動こうと、おそらくセロイは動揺しないだろう。

そうなると、セロイが苦境から立ち直るのを見せるために、チョン・デヒが悪事を働くようにしかけているように見える。

そこが自然じゃないというか。

 

原作の漫画がそうなのか、「梨泰院クラス」は恋愛の描き方は上手じゃない。

ドラマはそれではいけないと思って、どうにか最後にチョ・イソとセロイのロマンチックな場面を加えたようだが、はっきりいってオ・スアを張家から救って初恋を貫かないのなら、恋愛はなくてもいいかなと思ったくらいだ。

セロイの気持ちをイソに向かわせるために、イソは拉致されたり倒れたりしたわけで。

そういう仕掛けが見え見えだったと思う。

 

書いているうちにだんだん、辛辣になってきた。

ドラマの評判に比べて、物足りないと感じたのは、やっぱり全体的な人物の浅さだったと思う。深堀りしていない分、テンポは速いけど。

韓国ドラマのオリジナル脚本だったら、もうちょっと、一人ひとりの人物像を深くとらえて、セリフにもそれをうまく反映させたんじゃないかなと思う~。

 

脚本家は、マンガの原作者だそうで。しょうがないかな。

 

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【作品メモ】

韓国放送:2020年1月~ JTBC

演出:キム・ソンユン 脚本:チョ・クァンジン

全16話