韓ドラとソウルホテルと。

韓国ドラマのレビューブログ(基本的にネタバレ)。ときどき昔話。

愛の不時着

yoonaのココがみどころ!

■とうとう恋愛の障壁が「南北分断」にまで!

ヒョンビン×ソン・イェジンという、それだけで期待大のキャスティング。(しかも直前に熱愛報道出てたし)

■「愛の不時着」はメロでも政治ものでもなく、ラブコメ。笑えます。

 

 まだ録りためているドラマがあるにも関わらず、「愛の不時着」にざわめく世間の評判に耐えきれず、Netflixに再加入。

テンポもよく、登場人物も多くて、それだけあちこちで展開が多いので、もう一気見するしかない。4,5日で見終わった。

 

去年、このドラマの制作とキャスティングが発表になったとき、「韓国の財閥令嬢と北朝鮮の将校」っていう組み合わせと、令嬢がハングライダーで、北朝鮮に不時着するという設定に、あきれるというか、びっくりしちゃって。

それがソン・イェジンヒョンビンと聞いて、さらにびっくり。

いや、本気でそのドラマを作るんだ、と思いました。

 

脚本が「星から来たあなた」「青い海の伝説」の人と聞いて、納得。人間と宇宙人、人間と人魚というありえない恋愛を描いてきた人だ。

貧富の差とか学歴の差とか外国人とか、そういうものではもはや恋愛の障壁を描けなくなっていて、宇宙人とか人魚とかそういうものを引っ張り出した後、今度は北朝鮮ですか。

いや、笑えるというか、もはやファンタジーは通用しない感じがしてて。

 

それに、北朝鮮を素材にして、ここまで笑い倒していいのか、という疑問もあった。けど、韓国のドラマはこれまでにも財閥や政財界、法曹界など上層部と言われる人たちを題材にしては、それを笑い倒すような設定にして、痛快に笑い飛ばしてきたのだから、北朝鮮もそれと同じ俎上に乗ったと思えばいいのだろう。

 

基本的には(表向きには)、北朝鮮で韓国のドラマを見ることはないのだから、批判しようがないということもある。

いつも強面に描かれる国家情報院も、「愛の不時着」ではなんとなく温かみのある対応を見せるのは、北朝鮮よりも人間味があるということを見せたかったのか。

 

ともかく、今度は人間と人間の恋愛だ。どこにどう逃げ道というか進むべき道を見出すのだろうかという疑問に、期待が大きくなっていた。

 

自ら自社の新製品のテストのために、パラグライダーに挑んだユン・セリ(ソン・イェジン)は、突然の竜巻に巻き込まれて、北朝鮮の領土に不時着してしまう。

そこにいたのが、国境を警備する部隊のリ・ジョンヒョク中隊長(ヒョンビン)とその部下たち。

南からの来訪者を当局に通報することなく、中隊長の家にかくまうことになった。

 

幾度か、極秘裏にセリを韓国へ戻そうとするが、そのたびにいろいろな事件が起こり彼女は帰ることができない。次第に村の生活にもなじみ、中隊長とはお互いを気になる関係に。

 

平壌からは離れた村とは言え、セリの身分が知られては命に関わる。秘密を知っていてかくまった隊員たちの身も危ない。

そんな綱渡りの日常ながら、北朝鮮の人たちの日常がコミカルにも描かれていて、常に当局の目を意識しながらの暮らしの中にある、電気も食料も十分にない時代ののんびりした空気がなんともいえない。

 

なるほど、これはロマンスで、いずれハッピーエンドが訪れるのだろうと予想できた。

それがわかっていて、そこまでの経緯を楽しむのがロマンスの醍醐味だ。

人と宇宙人であろうと、人と人魚であろうと、いずれ二人はともに仲良く暮らす未来があるのだと予想できたが、「愛の不時着」では、現実に北と南の分断が続く中で、どうするんだろう、まさかドラマの中とはいえ統一を実現するなんてないよなあと思いつつ、見ていった。

 

想像できるのは、どちらかが、自分の国を捨てるんじゃないかということ。それから、二人で遠くに逃げるか。どちらも20世紀っぽい。

おそらく(想像だけど)、韓国の令嬢と北朝鮮の将校という「障壁」を思いついたとき、二人の未来をどうするかは先に考えたんじゃないか。

 

それから、北朝鮮に行ったユン・セリをどうやって南に戻すか。つまり、物語の舞台を韓国に戻すにはどうするか。リ・ジョンヒョクが南に来るだけの理由と方法はどうするのか。

ユン・セリが韓国に戻れないまま、ずっと北朝鮮が舞台のドラマとするのも難しいし(彼女を安全なまま北朝鮮において生活させるのは大変)。

それぞれの立場を理解するという意味では、リ・ジョンヒョクは南に行って、ユン・セリと立場を入れ替える必要があるのではないか。

 

そういう大枠から、細部を詰めていって、必要な人物を配置して肉付けしていって物語が出来上がったんじゃないかなと想像する。違うかも。

 

ユン・セリがいつか韓国へ帰るためには、穏やかに韓国に入れるように国家情報院にかけあって身元を引き受けることができるだけのセリの父親の財力が必要だし、リ・ジョンヒョクがセリをかくまうために危ない目に遭っても、なんとかそれをやりすごすためには、助けてくれる政府高官の父親の権力が必要だ。

 

行方不明のセリがなかなか見つからなくても、あちこちに頼んで捜索してもらうこともせず、死んだことにすればいいとあっさり思ってしまうような冷たい家族関係も必要だし、ジョンヒョクだけではセリをかくまいきれなくても、彼を慕って味方してくれる部下たちも必要だ。

 

ジョンヒョクは父の後を継いで軍人になった兄を殺され、音楽を辞め、自分の意に反して軍人になったことから、少し自分の人生にたいしてあきらめがあった。韓国では自分で会社を持ち、たくましく生きているセリの中に、まぶしいものを感じていたかも。

 

「星から来たあなた」も「青い海の伝説」もたくさんの伏線が張られていて、それが終盤にどんどん収拾されていった。

「愛の不時着」でも、伏線はたくさんあった。一番好きなのは、村の奥さんたちに、セリが自分とリ・ジョンヒョクの関係を対立する家の者同士である「ロミオとジュリエット」を使って説明しようとしたが理解されず、「織姫と彦星」と言いかえたところ。

「1年に1回の逢瀬」を待ちわびる織姫と彦星は二人の未来そのものだ。

ロミオとジュリエット」のままだったら、二人は死んでいたかもしれない。

 

国の分断という壁を乗り越えたセリとジョンヒョクに対して、それを乗り越えられなかったもう一組のカップルがいる。

元はセリの求婚者であるク・スンジュン(キム・ジョンヒョン)とジョンヒョクの婚約者であるソ・ダン(ソ・ジヘ)である。ロマコメの定石通り、最初は反目し合いながらも徐々に心を通わせていくが、こちらは悲劇に終わる。

 

ダンと気持ちが通じたク・スンジュンが命を落とすことは、セリとジョンヒョクはどうにかなるだろうと楽観的になっているところに、厳しい現実を突きつける。

ダンにも金持ちの母と軍では高位の叔父という力強いフィルターがあったが、ク・スンジュンは両親も失い、誰一人味方もいないなかで厳しい異国にあるという追い詰められた状況にあった。

彼が北朝鮮に来てまで守ろうとしたお金も、彼を助けなかった。

 

「愛の不時着」というタイトルは、英語では「Crash Landing on You」、「あなたに不時着」である。そっちのほうが意味が分かりやすいとも思う。

韓国語では「愛が不時着する」という意味で、セリとジョンヒョクの両方にとって無縁だった「愛」がまさに空から落ちてくるということなのだろう。

分断された国家である二つの国を母国にするセリとジョンヒョクが、永世中立国であるスイスで出会うというのも、考えられた仕掛けであろう。二人はのちに、お互いの国で暮らしながら、その戦争をしない国で過ごすことになるというのも、どちらかが国を捨てるのではなく、一つになれる場所を探すというメッセージだろうか。

 

印象深いシーンがある。

セリが「私は揚州ユン氏」というと、ジョンヒョクが「自分は全州李氏だ」というところ。もともとは、セリの家系が北朝鮮の出で、ジョンヒョクは韓国の領地を故郷としていたというのだ。

国の分断によって、意思とは関係なく人々は二つに分けられている。どちらかが相手のために自分の家族や仕事や友人を捨てるのではなく、それぞれに守りながら、自分たちだけの新しいやり方を見つけ出したというのがラストだろう。

そこが、ジェームズ・ボンドがロシアの美人スパイと恋愛するのとは、ちょっと違うところだ。

 

面白かったところはいろいろあるし、北朝鮮の村の奥さんたちも、ジョンヒョクの部下たちも、それぞれにほのぼのさせれくれる存在で、見ていて楽しかった。

常に人民を監視し、少しでも気にそぐわないところがあれば、すぐに刑罰を与えるという当局のやり方は、時にぞっとするが、そうしたものをくぐりぬけながら、明るくたくましく暮らす様子が、ドラマの側面を支えている。

 

ジョンヒョクが軍人として特殊部隊を率いながら、周囲を気遣う優しさを忘れないところは、両親や兄の愛情を受けて育ったものによるものだと思う。

対照的に、悪事の限りを尽くし、セリを殺すためにソウルにわたって、非業の死を遂げるチョ・チョルガン(オ・マンソク)は家族もいない天涯孤独の身である。それが彼が罪を犯すことにまったくひるむことがなかった理由だ、というかのような設定にしている。韓国人(朝鮮人)にとって「家族」がどれほど大事なのかを、改めて見せていると思う。

 

好きなシーンは、平壌への列車が停電で止まってしまい、草原で火を焚いて野宿するところ。手慣れた手つきで寝床を用意してくれるヒョンビンが良い。

サバイバルできる男に、女は弱いでしょうに。

いや、銃の攻撃から身を守ってくれるほうがという意見もあるかもだが、そもそもそんな目に遭いたくないし。

あと、豆を炒るところからコーヒーを入れてくれること。

 

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【作品メモ】

韓国放送:2019年12月~ tvN

演出:イ・ジョンヒョ 脚本:パク・ジウン

全16話

 

★私の一番のツボは、ソウルにやってきたジョンヒョクがゲームに没頭するシーンで、BGMに「アルハンブラ宮殿の思い出」がかかるところ💦

 

★泣けるシーンは、38度線を越えてセリが韓国へ帰るところで、38度線を1歩越えたジョンヒョク。