韓ドラとソウルホテルと。

韓国ドラマのレビューブログ(基本的にネタバレ)。ときどき昔話。

ハンムラビ法廷 ~初恋はツンデレ判事!?~

yoonaのココが見どころ!

■副題の「初恋はツンデレ判事!?」に騙されてはいけない。けっこう本格的な法廷ドラマ。

■元判事の人が書いた原作で、けっこういろんな「真実」と「皮肉」が潜んでいる。

■韓ドラ好きなら、どこでも見かける脇役のアジョッシ俳優のオンパレード。

 

 どうも、意図せず同じ俳優のドラマを立て続けに見てしまうことが多くて、

今回は前作の「応答せよ!1994」に続き、コ・アラさんがヒロイン。

しかも、前作では父親役だったソン・ドンイルさんが、今度は上司で。

放送時期としては「応答せよ」から数年経っていて、コ・アラさんがだいぶ大人だった。

 

「ミス・ハンムラビ」というのが原題で、日本版では「ハンムラビ法廷」と変えた上に、「初恋はツンデレ判事!?」というのがくっついていたため、私も見るのをためらっていた。

これ、くだらない部類のロマコメじゃないの?と。

見終わってみれば、確かに「ハンムラビ法廷」では、内容がよくわからないし、

「初恋はツンデレ判事!?」は、そういわれればそういう話なんだけれども、

もうちょっとなんか重みのある副題をつけられなかったのかなと、残念。

 

韓ドラでは、弁護士ものと検事ものは多いけれど、

裁判官ものはあまり見かけないですね。

それだけに職業として地味過ぎるし、

立場上あまり仕事の内容とか裁判の裏側見たいなものが表に出ないということもあるかも。

 

このドラマは原作が元判事の方が書いた小説で、ドラマの脚本にもその方がかかわっているとか。

なるほど、判事の部屋の感じとか、やり取りに出てくる表現とか、

審議から判決までの過程とかが、わかりやすく描かれている。

その点はすごく見ごたえがあるし、アイドルグループINFINITEのエル君の主演ドラマであるということをメインに宣伝するのはもったいないかも。

 

舞台はソウル地裁。民事事件を扱う44部の3人の判事が主人公である。

恋愛ものとしてはイム・バルン(キム・ミョンス=エル)、パク・チャオルム(コ・アラ)の二人が主役ということになるのだけれど、

職業ものとしては上司の裁判長であるハン・セサン(ソン・ドンイル)を入れなければ。

 

主義主張のはっきりしている新人判事チャオルムと

正統派エリート判事のバルンは高校時代の読書教室での知り合い。

チャオルムはバルンの初恋の人だ。(だから初恋はツンデレ判事なのだが)

チャオルムは音大に進んだと思っていたバルンだが、ある日彼女が後輩判事として同じ部署に赴任してくる。

この辺の偶然を装ったありえなさは、韓ドラならでは。

 

判事の仕事は激務で、膨大な書類に囲まれながら、途切れることのない訴訟をさばいていく。

3人の裁判官の役割や、法廷を支えるスタッフの仕事もよくわかる。

一つ一つの事案に対して、細かく証拠にあたりながら公正に審議しながら結審していくまで、

時間と良心と正義感に押しつぶされそうになりながら、法の番人である裁判官の使命を果たしていく様子は、

派手なパフォーマンスが多い弁護士や検事に比べて非常に地味だけれど、

それをなんとか理解してもらいたいという原作の意図がありあり。

 

昔好きだった子が、いきなり同僚になっちゃった、というドラマは多いが、

バルンとチャオルムは、仕事をしてるのかしてないのかわからないような展開で恋愛を進展させるのではなく、

きっちり仕事をしながら、お互いを理解し、助け合い、認め合っていく。

最初はお互い反目しあいながらというあたりは、ロマコメのセオリーどおりだが、

バルンが先輩、チャオルムが後輩という立場を守りながら(ずっと敬語だし)、

朝から晩まで二人きりで仕事をしていても、怪しい雰囲気になるということがない。

ロマコメよりは職業ものといったほうがいいのだろう。

 

次々に飛び込んでくる事案に対する意見の対立、

裁判所という閉鎖的な組織の中の人間関係がストーリーの柱だ。

韓ドラも以前のような事故、病気、記憶喪失ではなく、

パワハラ、セクハラ、人権の問題ということを大きく取り上げるようになったと思う。

韓国では、「男が女より偉い」意識が強いいのに、息子にとってはオンマが神様という不思議な構造があるが、

ドラマの作り手たちは、世の中の関心をつかんで、

それに対する「意見」や「皮肉」をメッセージとして世に送り出す。

 

古いものには、団結して立ち向かえ。

反対に、すでに組織の中で変わることのできない「古い人たち」の心情にも寄り添ってみる。

 

韓国のドラマは話数が多いだけあって、簡単に解決に至ることはないが、

その分、ドラマの途中でかかわってきた人たちの言動が、

あとになって伏線として効いてきたり、

スカッとする結末や、思いもよらない落とし穴を作ったりする。

判事として世間からの批判にさらされることになるチャオルムだが、

過去に救ってきた人たちが、のちに彼女を救ってくれることになる。

 

ハンムラビ法典というのは「目には目を、歯には歯を」で有名だが、

それは処罰のやり方だけでなく、善い行いは後に自分をも救ってくれるという意味で、

ドラマのタイトルにもなっているのだろう。

 

エル君は、「仮面の王」の次の作品だけど、

この作品が次に回ってきたというのは、彼にとって良かったなあと思う。

この作品ではINFINITEのエルではなく、本名のキム・ミョンスとして演じていることからも、「仮面の王」での評価で生まれた自信がうかがえる。

バルン役、あまり心のうちが顔にでなくて難しいと思うけれど、チャレンジできたし。

年齢的には、バルンを演じるにはちょっと若くて物足りないところもある。

33~35歳くらいの俳優か、もう少し男っぽい顔つきの俳優がやればよかったかなと思う。

実際、コ・アラさんのほうが年上だと思うけど、バルンが先輩に見えないところもあって。

ただ、先輩判事としては後輩のチャオルムを制することができても、

男としては初恋相手のチャオルムに強気に出られないバルンとしては、

エル君のかわいらしいところは生きてたかな。

口角を上げて笑うときにできるエクボはずるいくらい。

なにしろ声がいい。要所要所で、抑えた低音が効いていた。

良い顔より、良い声が俳優には大事です。

 

いい人をやっても悪人をやっても、全然違和感のないソン・ドンイルさんはさすがだけど、

このドラマの何がすごいって、主席部長(アン・ネサン)はじめ、

裁判所長、部長陣など、韓ドラの一癖あるおじさん俳優総動員という感じで、

誰の演技も本当に見ごたえがある。

裁判に出てくる原告や被告や傍聴席の人たちも、微妙な心理戦を描くのに違和感なく、

それでいて心がすさんだ人はうつろで、強欲な人はいかにもそのように見えるのがすごくて、

韓国俳優の層の厚さを感じる。

前半の父親の財産争いをしてた4人兄弟、リアルでした~。

チャオルムの祖母(キム・ヨンオク)が同居している市場のおばちゃんたちも、本当に市場にいそうな「ザ・韓国のおばちゃん」。

 

ドラマをかき回す役として、チャオルムの知人、財閥御曹司のミン・ヨンジュン(イ・テソン)が出てくる。

これが2番手の男か?と思って期待して見ていて、

ちょっとばかりバルンとの対決シーンもあるけど、

肝心のチャオルムの気持ちをその時はどちらもつかんでいなくて、

ちょっと拍子抜け。

 

韓国の世論がそうなのだろうけど、このドラマも財閥に対してはちょっと手厳しかったですね。

ヨンジュンは本当はすごくいい人なんじゃないかな~と思って見ていたのだけど、

世の中はやはりそうは見なさないものなのでしょう。

ヨンジュンは、自分が財閥の典型ではないということを主張するけど、

自分の家に降りかかってきたことには、典型的な対応をして、

ああやっぱりと思わせる。

というか、韓国ってお金持ちより、頑張って勉強した人にやさしい?

財閥より高学歴が尊敬されるらしい。

いや、それは生まれつき持っているものとは関係なく、がんばるということを奨励したいというメッセージなのか。

エル君の美貌は、賞賛に値すると思うが。

 

面白いのは、チャン・ボワン判事(リュ・ドックファン)と速記者のイ・ドヨン(イ・エリヤ)が付き合うことを、上司のぺ判事が不釣り合いだといって反対するところ。

司法試験に合格したエリートは、他の職員とは一段上にいるという彼らの「古い」特権意識が明確だけど、ボワンはそんなことはお構いなくドヨンと付き合うし、

ボワンよりも世間擦れしているドヨンは、「安全な男」であるボワンの「いい人である」という本質を見抜く。

エリート判事が将来、弁護士になったり政界に出ることを見据えて財閥の令嬢を選ぶのではなく、ドヨンのような女性を選ぶことももまた、皮肉なのかも。

そういえば、バルンもお金持ちのお嬢さんと何回かお見合いしてた~。

 

ただね~、学歴はないけど、努力して速記者になり、ウェブ作家として成功して家や車を買い、判事をつかまえるドヨンは、このドラマの中で一番ファンタジーかも。

 

最後に、この話が作家志望だったドヨンの脚本だったというオチは、

前にも「パリの恋人」で見たな~という既視感があった。

実際、判事が現場を物語にしたのだから、それはその通りなのかも。

結局、バルンとチャオルムはどうなるのか、というオチはなく、

ロマンス寄りにならなかったところは、リアルだったのかも。

 

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あと、私がすごくすごく気になったのは、

チャオルムが仕事中もず~っとトレンチコートを着ていること!

いったいコートを何着持っていることやら。

カットシーンでその謎を解くシーンがあったかもしれないけど)

 

 

 

【作品メモ】

韓国放送:2018年5月~ JTBC

演出:クァク・ジョンファン 脚本:ムン・ユソク

全20話